ブルースって何?アメリカ音楽の代表格をアメリカの音大生が解説!
どうも、ブルーノートでいつか演奏がしたいマルヒロです。
皆さんは「ブルース」という言葉を聞くと、どんなことを思い浮かべますか?
渋い歌声?
ギターセッション?
哀愁漂う歌詞?
12小節の形式?
いろいろなものが思いつきますよね。
それもそのはず。実は「ブルース」は、定義づけがものすごく難しい音楽のスタイルなのです。
演奏される場所や、演奏する人のスタイルに応じて、同じ「ブルース」を演奏していても全く違う音楽が生まれます。
今回は、そんなよく聞くけどいまいち定義の分からない「ブルース」を徹底解説していきます!
スポンサーリンク
まずはいろいろなブルースを聞いてみよう
早速ですが、一般的にブルースと認識されている曲をいくつか聴いてみましょう!
❶Three O'Clock Blues - B.B. King
❷Match Box Blues - Blind Lemon Jefferson
❸C Jam Blues - Red Garland Trio
❹山口智充&山本耕史の即興ブルースセッション
❺伊勢佐木町ブルース - 青江三奈
なんとなく似ている部分も確かにあるけど、5曲とも全く違う雰囲気があるように思えませんか?
この違いはどうして生まれるのか?本当に全部ブルースなのか?
そういった疑問を今から解決していきましょう!
スポンサーリンク
音楽理論的にみるブルース
まずは現代のミュージシャンにとって、最も一般的なブルースの定義をご紹介します。
「12小節のAAB形式」
ブルースを演奏したことのある方ならピンときたかもしれません。
ロックやジャズバンドのセッションで「ブルースをやろうぜ」といったら、12小節の「ブルース進行」と呼ばれるコード進行を繰り返し、それに合わせてアドリブ演奏するのが一般的です。
この12小節は、
1~4小節:A(主題)
5~8小節:A2(主題の繰り返し、もしくは発展)
9~12小節:B(最初の8小節で提示された内容に対するレスポンス、もしくはまとめ)
という3段構成に分けられます。
上の動画でいうと、ぐっさんたちがギターで演奏しているのがまさしくこの形です。
この12小節のブルース形式で演奏する場合、コード進行がすでに決まっているため、誰でもセッションに参加できます。
同じ12小節のコード進行を繰り返し、その中で誰でも気軽にアドリブ演奏ができるため、この形式が最も一般的な「ブルース」の形としてミュージシャンの間で広まりました。
ブルーノートを使った響き
12小節の構成とコード進行のほかに、ブルーノートと呼ばれる特殊な音階を使うこともブルースの特徴の一つと言えます。
ブルーノートは、「本来使われる音階よりも、少し低く演奏される音」と定義される場合が多いです。
もちろんその音楽のジャンルやキーによってどの音をどれだけ低く演奏するかは変わってくるのですが、キーがCのブルースでは「ドレミファソラシド」のミ・ソ・ラを半音下げて演奏することが多く、この半音下げた音たちのことを「ブルーノート」と呼びます。
さらに、そのブルーノートを強調するために、本来のドレミファソラシドからいくつかの音を抜いたブルース・スケールという特別な音階も存在します。
【ドから始まるブルース・スケース】
ド・ミ♭・ファ・ソ♭・ソ・シ♭
ブルースの最大の特徴のひとつは、このブルーノートの入ったブルース・スケールを多用した独特な響きのメロディだとされています。
ためしに、ピアノでブルース・スケールを適当に弾いてみてください。
それだけで十分ブルースっぽい雰囲気が出ると思います。
え、でもなんで音を下げるの?
って思いますよね?
後ほど詳しく説明しますが、ブルースはアフリカ音楽の影響を強く受けています。
我々が普段耳にする音楽は、西洋で生まれた12種類の音階(ピアノの鍵盤の音)を使って作られますが、アフリカの音楽ではそこまできっちりした決まりはありません。
場合によって音の高さを微妙に上げたり下げたりすることで、様々な感情や情景を表現します。
その影響を受けたアメリカの黒人ミュージシャンが、アフリカ音楽の独特な響きを再現するために作り出したのがブルーノートなのです。
そして、このブルース独特の響きと、先ほど紹介したAABの構成さえ持っていれば、別に12小節じゃなくてもブルースとみなされることがよくあります。
例えばこの曲は12小節ではないですが、主題⇒主題の発展⇒アンサーという3段構成と、ブルースっぽい響きを活用しているので、一般的にはブルースの一つのバリエーションとして認識されています。
歴史的にみるブルース
さて、ブルースの一般的な定義を音楽的な観点から解説したので、ここからはさらにマニアックな話に入っていこうと思います。
アフリカ音楽とのつながり
さきほどもちらっと触れましたが、ブルースはアフリカ音楽の影響をものすごく受けています。
というより、ブルースは「アメリカ大陸に連れてこられたアフリカ人たちが、自分たちのアイデンティティを維持するために作り上げた音楽の一つ」です。
アフリカの音楽について勉強するとわかるのですが、アフリカの多くの地域では音楽と人々の生活がものすごく密接に結びついており、人々が普段の暮らしの中で体験したことを常に音楽で表現します。
(英語の本ですが、西アフリカ地域の音楽の役割に関してはこちらの書籍に詳しく載っています。)
ブルースもその文化の流れを汲んで生まれました。
ブルースは英語で書くと"Blues"
そして"Blues"には「憂い、悲しみ」といった意味があります。
本来ブルースは、アメリカの黒人が、自分たちの生きづらさを表現するための音楽として生まれたのです。
そこには12小節とか、ブルース進行とか、ブルーノートとかそういうのは一切関係ありません。ただ、心の中の叫びを音楽に乗せて表現すれば、それがブルースなのです。
一番最初のリストの中では、❷のMatchbox Bluesがそれに一番近い形だと思います。
逆にいうと、最初に説明した音楽理論的なブルースの定義は
「心の叫びを表現する本来のブルース」
に影響を受けたミュージシャンが、ブルースっぽい音楽を演奏していくうえで少しずつ形になった、いわば「後付けの定義」だといえるでしょう。
スポンサーリンク
文化から見るブルース
現代におけるブルースの定義と、そもそものブルースの定義をご紹介したので、最後にアフリカで生まれたブルースがどのようにして現代の多様なブルースへと変化していったのかをさくっと説明します。
商業音楽化したブルース
黒人の「魂の叫び」の表現方法としてアメリカ南部で生まれたブルース文化が、1920年代ごろにとあるレコード会社の人たちによって発見されました。
その独特の響きとパワーに魅了された彼らは、その魅力を残しつつ、より大衆受けするような形に改良を加えたブルースを作り出します。
・しゃがれ声の男性が
・ギター1本で
・だらだらと日々の嘆きを歌うブルース
ではなく、
・透き通った歌声の女性シンガーが
・当時大流行していたジャズの演奏に合わせて
・失恋などな都会的な悲しみを中心に歌い上げる
「シティ・ブルース」の完成です!
これ以降の「ブルース」と呼ばれる音楽スタイルは、基本的にこのシティ・ブルースをベースに作られていきます。
エレキギターの導入によるブルースの大改革
時は進み、第二次世界大戦が終わったころ、アメリカの音楽業界では技術が著しい発展を遂げ、新たにエレキギターなどの楽器が使われるようになりました。
その結果、エレキギターの新たなサウンドを取り入れ、よりリズミカルで踊りやすいブルースのスタイルが生まれました。
それがB.B.キングらに代表される、ブルース・ロックや、シカゴ・ブルースなどのジャンルです。
一番最初のリストだと、❶のThree O'Clock Bluesが良い例です。
このころには、最初に紹介した「12小節の進行」や「ブルーノート」といった音楽的な要素がブルースというジャンルを定義づけるようになり、歌詞の内容はそこまで重視されなくなります(もちろんそれでも悲しみや怒りを表す歌詞が多いですが)。
日本の歌謡曲における「ブルース」
ちなみに、日本の歌謡曲にもアメリカのブルースの影響は流れ込んでくるのですが、日本で「ブルース」というタイトルがつくものの多くは、12小節でもなければ、ブルースっぽい響きの音階も使っていません。
むしろ日本では、本来のブルースの定義である「憂い・悲しみ」を表現しているかどうかが、「ブルース」というタイトルがつくかどうかのポイントになっているような気がします。
最初に紹介した青江三奈さんの伊勢佐木町ブルースもこのパターンですよね。
ブルースは自由だーーー!
ということで、今回は「ブルース」の定義について、いろいろな観点から解説してみました。
まとめると
・ブルースは12小節の3部構成が多い
・ブルーノートという特別な音階を使った独特の響きが特徴
・もともとはアフリカ系アメリカ人による、日々の生きづらさを表現するための音楽
・1920年代ごろから大衆音楽の仲間入り
・1950年代のエレキギターの導入で一気にサウンドが変わる
・日本では、音楽的な要素より歌詞の内容がブルースかどうかを決めるポイントに
といった感じですね。
結局のところ、ここまで色々な要素が絡んでいると、そう簡単に「ブルースとは○○である」と定義づけられないんですよね。
聴き手が「これはブルースだ!」と思ったらもうそれはその人にとってのブルースでいいんじゃないかな、と僕は思います。
とはいえ、この記事で少しは皆さんの「ブルースとは何か」という疑問が解消されていたらいいなーと考えていますので、もし何かわからない点や詳しく知りたいポイントがあれば、遠慮なくコメントやツイッターでお知らせください!
では、最後にこんな「ブルース」の動画を紹介してお別れしたいと思います。